総務・人事への社内問い合わせをAIで減らす|社内FAQの作り方

「有給はあと何日残っていますか」「住所が変わったら何を出せばいいですか」「経費の締め日はいつでしたっけ」——総務や人事の担当者のもとには、毎日のように同じ質問が届きます。1件ずつは数分で答えられても、そのたびに手が止まり、本来の仕事が夕方に押し出されていく。この記事では、社内FAQを整え、AIに一次回答を任せて、人は判断が必要な相談に集中するための進め方を、一緒に整理していきます。
⏱ 忙しい人向け 3行まとめ
- 社内問い合わせの多くは「規程や資料に書いてあるが、探しにくい」質問。まずは実際の問い合わせを集めて、定型のものを見きわめるのが出発点
- 進め方は「集める→答えを1か所にまとめる→AIに読ませる→人につなぐ線を決める」の4段階。AIより先に、答えの置き場所を整えるのが近道になりやすい
- 給与・評価・健康・ハラスメントなど個別の事情が絡む相談は人に残す。AIの回答は「規程のどこに書いてあるか」を示す形にすると、誤りに気づきやすくなります
社内問い合わせが減らないのは「答えが探しにくい」から
社内問い合わせが減らない主な原因は、答えそのものが無いことより、答えがどこにあるか分かりにくいことにあるケースが多いです。
就業規則、経費精算規程、各種届出の書式、福利厚生の案内——必要な情報は社内のどこかにあるものの、共有フォルダの奥、紙のファイル、過去のメール、担当者の記憶に散らばっています。社員からすると「探すより聞いたほうが早い」ため、総務・人事の担当者に質問が集まります。担当者が1〜2名しかいない中小企業では、その人が休むと答えが止まるという属人化の問題にもつながりやすくなります。
問い合わせの中身を分けてみると、性質の違う3種類が混ざっていることが多いです。
① 調べれば分かる質問
「慶弔休暇は何日?」「交通費の申請書はどこ?」「年末調整の提出期限は?」など。規程や案内に答えが書いてあるもの。AIに任せやすい領域です。
② 手続きの案内
「結婚したら何を出す?」「育休を取りたい」など。必要な書類や流れを案内すれば済むもの。チェックリストの形で整えると、AIでも案内しやすくなります。
③ 個別の判断が必要な相談
「自分の場合は手当の対象か」「体調のことで相談したい」「職場の人間関係で悩んでいる」など。事情を聞いて判断するもの。人が対応する領域です。
自動化で減らせるのは主に①と②です。現場では、①と②が問い合わせ全体のかなりの部分を占めている会社が多く、ここを減らすだけでも担当者の「割り込み」は目に見えて減りやすくなります。一方で③まで無理にAIに寄せようとすると、社員の不安や不満につながりやすいため、最初から線を引いておくのが現実的です。
社内FAQとAIの組み合わせで、何がどこまで減らせるか
社内問い合わせの自動化は、「社内FAQの整備」と「AIによる一次回答」を組み合わせる形が基本形です。
社内FAQだけでも効果はありますが、社員が自分で探して読む必要があるため、「探すより聞いたほうが早い」状態を変えきれないことがあります。そこで、社内FAQや規程をAIに読ませ、社員がチャットで質問すると、AIが該当する答えと根拠の資料を返す仕組みを組み合わせます。このように、自社の資料を検索してから答えを作る仕組みは「RAG(検索拡張生成)」と呼ばれ、社内向けAIの多くがこの方式を取っています。
社員が総務・人事にチャットや口頭で質問。担当者が規程を探して回答する。担当者が不在だと回答が止まり、同じ質問に何度も答えることになる
社員がまず社内AIに質問。AIが社内FAQや規程から答えと根拠を示す。解決しない場合や個別の相談だけ担当者に届く。担当者はFAQの更新と個別対応に時間を使える
方法はいくつかあり、会社の規模や今使っているツールによって向き不向きがあります。
| 方法 | 向いている会社 | 注意点 |
|---|---|---|
| 社内FAQページ・共有ドキュメント | 社員数が少なく、まず答えを1か所にまとめたい会社 | 社員が自分で探す必要があるため、「聞いたほうが早い」状態が残りやすい |
| 今使っているグループウェア・チャットのAI機能 | Microsoft 365やGoogle Workspace、ビジネスチャットをすでに使っている会社 | 契約プランによって使える機能が異なる。読ませる資料の範囲と閲覧権限の設定を確認する |
| 社内向けAIチャットボット・RAGツール | 問い合わせ件数が多い、拠点が複数ある会社 | 月額費用がかかる。資料の更新を誰が担うかを決めておかないと、古い回答が残りやすい |
最初から専用ツールを入れる必要はありません。すでに使っているグループウェアのAI機能で試してみて、足りなければ専用ツールを検討する、という順番が負担の少ない進め方です。ツールを選ぶ観点は社内AI・RAGツールの選び方で詳しく整理しています。
AIは「答え」より「規程のどこに書いてあるか」を返させる
社内AIの設定では、回答と一緒に根拠となる資料名や条文を示すようにしておくと、社員も担当者も内容を確かめやすくなります。AIの回答が規程とずれていたときに気づきやすく、FAQの修正箇所も見つけやすくなります。
社内FAQの作り方|5つのステップ
社内FAQは、実際に届いた問い合わせを集めて、答えと根拠をセットにして1か所にまとめるところから始めるのが近道です。
STEP1:2〜4週間分の問い合わせを記録する
総務・人事に届いた質問を、チャット・メール・口頭を問わず、簡単な表に書き出します。「質問の内容」「誰から(部署)」「答えに使った資料」「かかった時間の目安」の4列程度で十分です。完璧に記録しようとせず、思い出せる範囲で構いません。
STEP2:質問を分類し、よく来るものから並べる
集めた質問を「勤怠・休暇」「給与・手当」「経費」「入退社・届出」「福利厚生」「ITトラブル」などに分け、件数の多い順に並べます。上位20〜30問程度をFAQの最初の対象にすると、手が回る範囲に収まりやすくなります。
STEP3:1問ごとに「答え・根拠・担当」を書く
答えは2〜3行で簡潔に。根拠として規程の条文や書式の保存場所を添え、判断が必要な場合の問い合わせ先も書いておきます。質問文は社員が実際に使う言い方に合わせると、AIが探しやすくなります(「慶弔休暇」だけでなく「身内に不幸があったとき」なども併記する)。
STEP4:AIに読ませて、担当者が試す
まとめたFAQと規程をAIに読ませ、担当者自身が社員になったつもりで質問してみます。誤った答えや、答えられない質問を洗い出し、FAQを書き足します。この段階で、答えてはいけない質問への返し方(「担当者におつなぎします」など)も確認しておきます。
STEP5:1部署で試してから全社に広げる
まず1部署で1か月ほど使ってもらい、使われ方と担当者への問い合わせの変化を見ます。そのうえで全社に案内し、「まず社内AIに聞いてみてください」という流れを伝えていきます。
FAQをまとめる作業そのものにもAIが使えます。記録した問い合わせの一覧をAIに渡して分類させたり、規程の条文から回答の下書きを作らせたりすると、担当者は確認と修正に集中できます。ただし、下書きは規程と照らし合わせてから公開してください。
問い合わせを分類するプロンプト例
以下は総務に届いた社員からの質問の一覧です。内容が近いものをまとめて「質問カテゴリ」と「代表的な質問文」に整理し、件数の多い順に並べてください。個人名や個別の事情が含まれる質問は「個別相談」として別にまとめてください。
(ここに質問の一覧を貼り付け)
なお、社員の個人情報や相談内容をAIに入力する場合は、会社として利用を認めたサービスで、入力データが学習に使われない設定になっているかを事前に確認してください。社内ルールの作り方は生成AIの社内ルール・ガイドラインの作り方が参考になります。
AIに任せる範囲と、人に残す範囲の線引き
AIに任せるのは「規程や手続きの案内」まで、個人の事情に踏み込む相談は人に残す、という線引きが基本形です。
社内問い合わせには、社員の健康、家族の事情、職場の人間関係など、慎重な対応が必要な内容も含まれます。こうした相談をAIが機械的に返すと、「会社に話を聞いてもらえない」と受け止められることがあります。問い合わせ対応を軽くすることが目的でも、社員が安心して相談できる窓口は残しておくことが大切です。
| 区分 | 例 | 対応 |
|---|---|---|
| AIに任せやすい | 休暇の種類と日数、届出の書式と提出先、経費の締め日、社内システムのログイン方法 | AIが回答し、根拠の資料を示す |
| AIが案内し、人が確認 | 育児・介護休業の手続き、住所・氏名変更、各種手当の申請 | AIが流れと必要書類を案内し、申請は担当者が受け付ける |
| 人が対応 | 給与額の個別確認、評価、健康・メンタルの相談、ハラスメント、退職の相談 | AIは「担当者におつなぎします」と返し、窓口を案内する |
法令にかかわる手続き(社会保険、育児・介護休業、労働時間など)は、制度改正で内容が変わることがあります。FAQに載せる内容は、社会保険労務士など専門家に確認したうえで、改正のたびに見直す運用にしておくと安心です。
つまずきポイント
社内問い合わせの自動化でつまずきやすいのは、ツールの性能よりも「資料の更新」と「社員への伝え方」の部分です。
ありがちな失敗①:規程が古いままAIに読ませる
AIは読ませた資料をもとに答えるため、古い規程や重複した書式が混ざっていると、古い内容で答えてしまうことがあります。読ませる前に「最新版はどれか」を整理し、古いファイルは読ませる対象から外しておくのがおすすめです。規程を改定したら、FAQとAIの資料も同時に差し替える担当を決めておくと、ずれが起きにくくなります。
ありがちな失敗②:「AIに聞いて」と突き放してしまう
導入直後に「これからはAIに聞いてください」とだけ伝えると、社員は使い方が分からず、結局担当者に聞きに来ることが多くなります。最初の数週間は、担当者が質問を受けたときに「社内AIだとこう聞くと出てきますよ」と一緒に試してみるなど、使い方を少しずつ広げていくほうが定着しやすい傾向があります。
補助金で導入費用を抑えるヒント
社内向けAIチャットボットやグループウェアの導入費用は、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の対象になる場合があります。
対象になるのは、事務局に登録された支援事業者を通じて、登録済みのITツールを導入する場合に限られます。社員向けのAI研修を合わせて行う場合は、人材開発支援助成金が使えることもあります。制度の全体像はデジタル化・AI導入補助金とは、研修の助成金はAI研修・リスキリングに使える助成金で解説しています。補助額・補助率・対象ツール・締切は公募回や年度で変わるため、最新は必ず公式サイトで確認してください。
よくある質問
Q. 社員が20名ほどの会社でも、社内AIを入れる意味はありますか?
A. 社員数が少ない場合は、専用ツールを入れる前に、社内FAQを1つの共有ドキュメントにまとめるだけで問い合わせが減ることもあります。すでにMicrosoft 365やGoogle Workspaceを使っているなら、付属のAI機能にFAQを読ませて試すのが負担の少ない方法です。担当者が問い合わせ対応に毎日まとまった時間を取られているかどうかを、判断の目安にしてみてください。
Q. AIが間違った答えを返したら、誰の責任になりますか?
A. AIの回答はあくまで案内であり、最終的な判断は規程と担当者にもとづく、という位置づけを社内に明示しておくのが現実的です。回答に根拠の資料名を示す設定にし、「手当や給与など金額にかかわるものは担当者に確認する」と案内文に書いておくと、誤解が起きにくくなります。社内規程上の扱いに不安がある場合は、専門家に相談してください。
Q. 就業規則などの社内資料をAIに読ませても、情報漏えいの心配はありませんか?
A. 法人向けのプランや社内向けツールの多くは、入力したデータを学習に使わない設定や、閲覧権限を部署ごとに分ける機能を備えています。ただし、設定や契約条件はサービスごとに異なるため、導入前に利用規約とデータの扱いを確認してください。個人情報を含む資料は読ませる対象から外すか、閲覧できる人を限定しておくと安心です。