業種別AI導入

運送・物流のAI活用|配車・点呼・書類業務をどこまで減らせるか

公開:2026.09.27 / AI参謀 編集部
運送・物流のAI活用|配車・点呼・書類業務をどこまで減らせるか

朝の点呼、配車表の組み直し、荷主からの電話、運転日報の集計、月末の請求書——。運送会社の事務所は、ドライバーが走っている間もずっと忙しいものです。2024年4月からドライバーの時間外労働に上限がかかり、「走れる時間」が限られた今、事務所側の仕事をどう軽くするかは、そのまま運べる量に関わってきます。この記事では、運送・物流の中小企業でAIに任せやすい仕事と、人が残すべき仕事の線引きを業務ごとに整理し、点呼のルールとの付き合い方や小さく始める手順まで一緒に見ていきます。

⏱ 忙しい人向け 3行まとめ

  • 運送業でAIが効きやすいのは「配車計画の下案づくり」「点呼まわりの記録・確認」「日報・請求などの書類業務」の3つ
  • 点呼・安全管理・荷主との交渉のように法令上の責任や信頼関係が伴う部分は人が残すのが基本形。AIやデジタル機器は「下案と記録と確認漏れ防止」の役
  • まずは「日報の集計」か「配車の下案」のどちらか1業務で1〜2ヶ月試し、事務時間の変化を記録してから広げるのが現実的

運送業でAIが効くのは「走る前後」の事務所の仕事

運送業のAI活用は、運転そのものではなく、運行の前後にある事務所の定型業務から始めるのが現実的です。安全に運ぶこと、荷主の現場で臨機応変に対応することは、ドライバーと運行管理者の経験がものをいう仕事です。一方で、その前後には次のような「毎日ほぼ同じ手順で繰り返す作業」が積み上がっています。

受注

荷主からの依頼受付・電話・メール

配車

車両とドライバーの割り当て

点呼・運行

乗務前後の点呼・運行記録

締め

日報集計・請求・労務管理

中小の運送会社では、この流れの大半を社長・配車係・事務員の数人で回していることが多く、特定の人が休むと業務が止まりやすい状態になりがちです。「量が多く、手順が決まっていて、記録が残る仕事」ほどAIやデジタルに渡しやすいと考えると、どこから手をつけるかが見えてきます。

もう一つの背景が、いわゆる「2024年問題」です。ドライバーの時間外労働に年960時間の上限が設けられ、労働時間の把握と記録の重要性が増しました。拘束時間や休息期間の管理を紙とExcelで続けると、事務所側の確認作業が増えやすくなります。AIやデジタル化は「人を減らす」ためというより、限られた時間で今の仕事を回し続けるための道具と捉えると、社内の理解も得やすくなります。

業務別:運送会社でAIに任せやすい仕事

受注・配車・点呼・運行管理・締め業務で、AIやデジタルに任せやすい仕事と人が残す仕事を整理すると、次のようになります。

業務AI・デジタルに任せやすい仕事人が残す仕事
受注メール・FAXの依頼内容の読み取りと台帳への転記、よくある問い合わせへの返信案新規荷主との条件交渉、無理な依頼の断り方の判断
配車車両・ドライバー・荷物の条件から配車の下案を作る、拘束時間の超過リスクを知らせる荷主の事情やドライバーの体調を踏まえた最終調整
点呼アルコールチェックや点呼記録の自動保存、記録漏れの通知(認定機器を使う場合)ドライバーの様子の見きわめ、乗務させるかどうかの判断
運行管理デジタコのデータから運行実績を集計、日報の文章化、ヒヤリハットの要約事故・トラブル時の対応、安全指導
締め運行実績と請求書の突き合わせ、請求書の下書き、労働時間の集計請求内容の最終確認、運賃の見直し交渉

業務をまたいで効きやすいのは、次の4つの使い方です。

🚚 配車の下案づくり

車両・ドライバー・荷物の条件を渡し、AIやクラウド配車システムに候補を出させて人が調整

📋 日報・運行記録の集計

デジタコや日報の記録から、ドライバーごとの労働時間や走行実績を自動でまとめる

📄 受注・請求の転記

FAXやメールの配送依頼をAI-OCRで読み取り、台帳や請求書に転記する手間を減らす

☎️ 電話・問い合わせの仕分け

「今どこ?」「何時に着く?」といった定型の問い合わせを、位置情報や運行状況から返せる形にする

💡

ここがポイント

配車のAIは、入力となる「車両・ドライバー・荷主ごとの条件」が整理されているかで精度が大きく変わります。「この荷主はこの車両しか入れない」「このドライバーは夜間不可」といったベテランの頭の中にある条件を、まず一覧に書き出すことが下準備になります。書き出す作業そのものが、配車の属人化を減らす効果もあります。

点呼・運行管理とAIの付き合い方

点呼や運行管理にAI・デジタル機器を使うときは、「国が認めた方法と機器の範囲で使い、判断は人が持つ」運用にしておくのが基本形です。点呼は、ドライバーの健康状態や酒気帯びの有無を確認し、安全に乗務できるかを判断する大事な手続きで、方法が法令・告示で細かく決められています。

近年は、国土交通省の告示改正により、認定を受けた機器を使う遠隔点呼や、機器が点呼の一部を担う自動点呼が段階的に認められてきました。2025年には、乗務後だけでなく乗務前の自動点呼についても告示が改正されています。夜間や早朝の点呼のために運行管理者が事務所に詰める負担を減らせる可能性がある一方、使える機器・場面・記録の残し方などには要件があります。

AI・機器に任せやすい範囲

アルコールチェックの測定と記録、顔認証による本人確認、点呼記録の自動保存、記録漏れや未実施の通知、健康状態の申告の収集。

人が確認・判断する範囲

ドライバーの様子に違和感がある時の対応、乗務させるかどうかの最終判断、異常があったときの代替手配、安全指導や教育。

生成AIの使いどころとしては、点呼そのものより、点呼記録やヒヤリハット報告を要約して、安全会議の資料や指導のネタにする使い方が取り入れやすい傾向があります。蓄積された記録から「特定の時間帯・ルートでヒヤリハットが多い」といった傾向を読み取る補助にも使えます。

⚠️

法令・告示は公式・専門家で確認を

点呼の方法、使える機器の条件、労働時間の基準、取引に関するルールは、改正や運用の見直しが続いています。導入前に、所管の運輸局やトラック協会、機器メーカー、社会保険労務士などの専門家に最新の要件を確認してください。

小さく始める4つのステップ

運送会社のAI導入は、日報の集計か配車の下案のどちらか1業務から始めて、1〜2ヶ月で効果を測るのが現実的です。いきなり運行管理システムを全部入れ替える必要はありません。

  1. STEP1:事務所の仕事の時間を書き出す

    配車係・事務員・運行管理者それぞれに、「電話対応」「配車表づくり」「日報集計」「請求書づくり」「点呼」に週何時間使っているかを聞きます。ざっくりで構いません。

  2. STEP2:最初の1業務を決める

    件数が多く、手順が決まっていて、間違えても修正しやすい業務を選びます。多くの会社では「日報・運行実績の集計」か「受注FAXの転記」が候補になります。配車は効果が大きい反面、条件の整理に時間がかかるため2番手にする選択肢もあります。

  3. STEP3:今あるデータと道具を確認する

    デジタコ・ドラレコ・勤怠システム・会計ソフトなど、すでに使っている機器やソフトに集計や連携の機能がないかを確認します。新しいツールを入れる前に、今の道具の使っていない機能を使うだけで済むこともあります。

  4. STEP4:1〜2ヶ月試して時間を記録する

    1日あたりの事務時間がどれだけ減ったか、ミスや抜けが減ったかを記録します。効果が見えたら、次の業務(配車の下案、請求の突き合わせなど)に広げます。

30分/日
試算例:日報集計と請求の転記が1日30分短くなると
約10時間/月
稼働20日で、配車や荷主対応に回せる時間の目安

上の数字は仮の条件を置いた試算で、車両台数や荷主の数、今の記録の仕方によって変わります。自社で1日の事務時間を測り、その数字をもとに判断するのが確実です。

運送業ならではのつまずきどころ

運送業のAI導入でつまずきやすいのは、ツールの性能よりも「ドライバーの負担」と「紙・FAXとの二重管理」です。

1つ目は、ドライバー側の入力が増えてしまうケースです。事務所を楽にしようとして、スマホでの報告項目を増やすと、運転の合間の負担になり、入力漏れも増えがちです。ドライバーの入力は減らすか、今と同じ量に抑えることを前提に、デジタコや位置情報など「自動で取れるデータ」を中心に組み立てると定着しやすくなります。

2つ目は、荷主とのやり取りが紙・FAXのまま残るケースです。自社だけデジタル化しても、依頼がFAXで届く限り、転記の手間は残ります。すぐに荷主の運用を変えるのは難しいため、まずは届いたFAXをAI-OCRで読み取る「受け口」をデジタルにするのが現実的な一歩です。

補助金で導入費用を抑えるヒント

運送会社のAI・デジタル化では、省力化投資補助金とデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)が候補になりやすいです。登録されたITツールであれば、配車・運行管理・勤怠・請求まわりのソフトの導入費用の一部が補助される可能性があります。人手不足の解消に向けた省力化の設備投資であれば、省力化投資補助金が使えるケースもあります。

また、点呼機器やデジタコなどについては、業界団体や自治体が独自に助成を行っている場合もあります。経済産業省は運送業などを含む「エッセンシャルサービス」の効率化事例集も公表しており、打ち手を探すヒントになります。

ただし、対象となるツールや補助率・上限額、申請の締切は公募回・年度で変わります。制度は公募回・年度で変わるため、最新は公式サイト・専門家で確認してください。制度の違いは関連記事で整理しています。

つまずきポイント

「配車システムを入れれば、ベテランがいなくても回る」と期待しすぎる

配車の下案をAIやシステムに出させても、荷主ごとの細かな事情や当日の変更を最後に調整するのは人です。導入直後は、システムの提案とベテランの判断が合わないことも多く、「使えない」と感じて元に戻してしまうケースもあります。最初の数ヶ月は「下案づくりの時間が減ればよい」くらいの期待値で始め、ベテランの調整内容を条件として少しずつ登録していくと、提案の精度が上がりやすくなります。

よくある質問

Q. トラック10台前後の小さな運送会社でもAIを入れる意味はありますか?

A. 小規模な会社ほど、社長や配車担当が事務・電話・点呼を兼ねていることが多く、事務の時間が減る効果を実感しやすい傾向があります。いきなり配車システムを入れるより、月数千円程度の法人向け生成AIで日報の集計や請求書まわりの下書きから試すのが現実的です。

Q. 点呼をAIやロボットに任せても法律上問題はありませんか?

A. 国土交通省の告示で、認定を受けた機器を使う遠隔点呼や自動点呼が段階的に認められてきています。ただし、使える機器・場面・記録の残し方などに要件があり、改正も続いています。導入前に運輸局や機器メーカー、専門家に最新の要件を確認してください。

Q. 配車をAIに任せると、ベテラン配車係の仕事はなくなりますか?

A. 現場では、AIが下案を出し、ベテランが荷主の事情やドライバーの状況を踏まえて最終調整する分担が多い傾向があります。むしろ配車係が一人で抱えていた判断の一部を下案として見える化できるため、休みを取りやすくなる、後任を育てやすくなるといった効果が期待できます。