補助金は併用できるか|同じ投資に複数制度を使うときの考え方

「ロボットは省力化投資補助金、管理ソフトはデジタル化・AI導入補助金で申請したい」「業務改善助成金ももらえるなら使いたい」——AI導入や省人化の投資額が大きくなるほど、複数の制度を組み合わせたくなるものです。ただ、併用のルールを知らずに申請すると、不採択や交付決定の取消につながることもあります。この記事では、同じ投資に複数の制度を使うときの考え方を、公募要領の記載をもとに一緒に整理していきます。
⏱ 忙しい人向け 3行まとめ
- 大原則は「同じ経費に、国の補助金を二重に使わない」。経費や事業がはっきり分かれていれば、複数の制度を使える場合がある
- 見落としやすいのは経費以外の制限。申請回数の上限、過去の交付決定による対象外、他制度の申請実績の入力義務は制度ごとに決まっている
- 進め方の目安は「投資の全体像を先に分解 → 経費ごとに制度を割り当て → 両方の公募要領と事務局で確認」の順
補助金は併用できる?結論は「経費が分かれていれば可能な場合がある」
補助金の併用は、「同じ経費に国の補助金を重ねない」という条件を守れば、制度によっては認められる、というのが基本的な考え方です。
たとえば、中小企業省力化投資補助金(一般型)の第8回公募要領では、国(独立行政法人等を含む)の補助金と補助対象経費が重複する事業は補助対象にならないと定めています。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募要領にも、同じ趣旨の記載があります。裏を返すと、禁止されているのは「同じ経費への二重の補助」であって、別の設備・別のソフトに別の制度を使うこと自体が一律に禁止されているわけではありません。
同じ協働ロボット1台の購入費を、省力化投資補助金とものづくり補助金の両方に計上する。同じ業務ソフトの導入費を、国の補助金と別の国の補助金で分けて申請する
配膳ロボットの本体は省力化投資補助金、別に導入する予約・勤怠のクラウドソフトはデジタル化・AI導入補助金というように、対象の設備・ソフトと経費がはっきり分かれている
ただし「経費が分かれていればOK」で終わりではありません。制度ごとに申請回数や過去の受給歴による制限があり、そちらで対象外になるケースもあります。次の章で、併用の可否を分ける線引きを3つに分けて見ていきます。
制度は公募回・年度で変わります
この記事の内容は、2026年9月時点で公開されている公募要領などにもとづく整理です。併用に関する規定は公募回・年度で変わることがあります。最新は必ず公式の公募要領で確認し、判断に迷う点は事務局や認定支援機関などの専門家に相談してください。
併用の可否を分ける3つの線引き
併用できるかどうかは、「経費」「事業」「申請回数・受給歴」の3つの線引きで考えると整理しやすくなります。
① 経費が重なっていないか
同じ設備・同じソフト・同じ役務の費用を、2つの国の補助金に計上していないか。ソフト本体は分けていても、導入設定やサポートなどの付随費用が重なりやすい
② 事業が重なっていないか
同じ事業計画を複数の補助金に同時に出していないか。同時に出して両方採択された場合は、1つを選ぶ必要がある
③ 回数・受給歴の制限に当たらないか
「期間中1申請まで」「過去3年で2回以上の交付決定は対象外」など、制度ごとの制限に当たっていないか
①の経費について、デジタル化・AI導入補助金2026の通常枠の公募要領では、通常枠とインボイス枠・セキュリティ対策推進枠に複数申請する場合の注意として、補助対象経費の二重計上が疑われる場合は交付決定の取消や全額返還を求めることがあると明記しています。特にオプション・役務は二重計上になる可能性が非常に高いとされ、IT導入支援事業者とよく相談するよう求めています。
②の事業について、省力化投資補助金(一般型)第8回の公募要領では、同一事業を複数の補助金に同時期に応募し、複数採択された場合は交付を受ける補助金を1つだけ選んで交付申請する必要があるとしています。選ばずに複数の補助金を受け取っていたことが分かった場合は、交付決定日が遅いほうの交付決定を取り消し、返還を求めるとされています。
③の回数・受給歴は、制度ごとに中身がかなり違います。代表的なものを表にまとめました。
| 制度(公募回) | 主な制限(公募要領の記載を要約) |
|---|---|
| デジタル化・AI導入補助金2026(通常枠) | 交付申請期間中は1法人・1個人事業主あたり1申請まで。ただしインボイス枠・セキュリティ対策推進枠は別に申請できる。IT導入補助金2025の通常枠などで交付決定を受けた事業者は、交付決定日から12か月以内は2026年の通常枠に申請できない。過去(2024・2025)に交付決定を受けたソフトとプロセスが重なる場合は減点、完全に一致する場合は不採択 |
| 省力化投資補助金(一般型・第8回) | 申請日から過去3年間に、ものづくり補助金・事業再構築補助金・新事業進出補助金の交付決定を合計2回以上受けた事業者は対象外。これらの補助金で交付決定を受け、補助金の支払いが完了していない事業者も対象外 |
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金(第1回) | 申請日から過去3年間に、事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金の交付決定を合計2回以上受けた事業者は対象外。同一事業者が今回の公募で複数申請する事業も対象外 |
また、省力化投資補助金(一般型)や新事業進出・ものづくり補助金では、過去に交付決定を受けた補助金や現在申請中の補助金の実績を、応募時に電子申請システムへ入力することが求められています。記載漏れは虚偽申請として不採択になるとされており、中小機構や中小企業庁所管の各補助金事務局の間で申請・交付の情報を共有して重複を確認する、とも明記されています。「別の制度だから分からないだろう」という考え方は通用しない前提で進めるのが安全です。
組み合わせ別の考え方|国×国・補助金×助成金・自治体・税制
組み合わせのパターンによって、確認すべきポイントが変わります。よく相談を受ける4つの組み合わせを整理すると次のとおりです。
| 組み合わせ | 基本的な考え方 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 国の補助金×国の補助金 (例:省力化投資補助金+デジタル化・AI導入補助金) | 同じ経費への重複は不可。設備本体とソフトなど、対象を分ければ検討の余地がある | 両方の公募要領の重複規定、回数・受給歴の制限、付随費用の重なり |
| 国の補助金×厚労省の助成金 (例:省力化投資補助金+業務改善助成金) | 助成金も国の制度のため、同じ設備投資への重複は避けるのが基本 | 助成金側の併給調整の規定。管轄の労働局への確認 |
| 国の補助金×自治体の補助金 | 扱いは自治体ごとに異なる。「国の補助金を受けた経費は対象外」とする制度もあれば、「国の補助の自己負担分への上乗せ可」とする制度もある | 自治体の要綱の併用規定。担当課への事前確認 |
| 補助金×税制 (例:補助金+中小企業経営強化税制) | 同じ設備に重ねられるケースが多いとされる。ただし補助金相当額を差し引いて計算する(圧縮記帳など)のが一般的 | 税額控除・即時償却の計算への影響。税理士への確認 |
業務改善助成金(厚生労働省)については、同制度のQ&Aで「他の助成金等について助成対象が同一の設備投資等に要する費用ではないものについては、原則として、併せて助成を受けることができる」一方、「補助目的等が重複する場合は、併給調整の対象となることがある」という趣旨の回答が示されていると紹介されています(社労士事務所の解説による)。最新年度の扱いは、管轄の都道府県労働局で確認してください。
自治体の補助金は、国の補助金の自己負担分に上乗せできる制度もあれば、国の補助金との併用自体を認めない制度もあり、ばらつきが大きいのが実情です。探し方と確認の手順は「自治体のAI・DX補助金の探し方」で詳しく整理しています。
税制は「お金が入る」補助金とは性質が違うため、同じ投資に重ねて使える場合が多いとされます。ただし補助金を受けた分だけ税制上の取得価額が小さくなる処理が一般的で、思ったほど税負担が軽くならないこともあります。詳しくは「中小企業経営強化税制とAI・システム投資」をご覧ください。
複数の制度を使うときの進め方
複数の制度を使うときは、「制度から探す」より「投資を分解してから制度を割り当てる」順番のほうが、重複やスケジュールの衝突を避けやすくなります。
STEP1:投資の全体像を書き出す
導入したい設備・ソフト・工事・研修などを、見積の明細レベルで一覧にする。付随費用(設定、保守、研修、マニュアル作成)も分けて書いておく
STEP2:明細ごとに「使えそうな制度」を割り当てる
設備本体は省力化投資補助金、クラウドソフトはデジタル化・AI導入補助金、といった形で、1つの明細に1つの制度を割り当てる。どこにも当てはまらない明細は自己負担か税制で考える
STEP3:各制度の制限を確認する
申請回数、過去の交付決定、他制度との重複規定、事業実施期間を公募要領で確認。期間が重なる場合は、発注・支払いのタイミングが両方の制度のルールに合うかも見る
STEP4:ベンダー・支援機関と見積を分ける
見積書・契約書を制度ごとに分けて作ってもらい、同じ費用が2つの見積に入っていないかを突き合わせる
STEP5:申請時に他制度の実績を正しく申告する
過去に受けた補助金、同時に申請している補助金を漏れなく入力する。迷う場合は申請前に事務局へ問い合わせる
このうち、つまずきやすいのはSTEP4です。同じベンダーから複数の製品を買う場合、導入設定や保守の費用が両方の見積に入ってしまうことがあります。ベンダーに「2つの補助金で分けて申請する予定」と最初に伝えておくと、見積の作り方をそろえてもらいやすくなります。
- 見積の明細ごとに、どの制度に計上するかが1対1で決まっている
- 導入設定・保守・研修などの付随費用が、2つの見積に重複していない
- 各制度の申請回数・受給歴の制限に当たらないことを確認した
- 事業実施期間と、発注・納品・支払いの予定日が両方の制度のルールに合っている
- 過去・申請中の補助金の実績を申告する準備ができている
つまずきポイント
併用で起きやすいのは、「経費を分けたつもりが分かれていなかった」と「制度の対象外条件を見落とした」の2つです。
「別の製品だから大丈夫」と思っていたら付随費用が重なっていた
ロボット本体とソフトは別々の制度で申請していても、両方の見積に「導入設定一式」「初年度保守」が入っていると、二重計上を疑われる原因になりやすくなります。特にデジタル化・AI導入補助金の公募要領では、オプション・役務が二重計上になりやすいことが明記されています。見積を並べて、同じ作業の費用が2か所に出ていないかを確認するのが目安です。
前に使った補助金が原因で、次の申請の対象外になっていた
数年前にものづくり補助金や事業再構築補助金を使った会社が、省力化投資補助金(一般型)に申請しようとして、「過去3年で交付決定2回以上」や「補助金の支払いが完了していない」という条件に当たっていた、というケースがあります。社内で補助金の担当者が替わっていると、過去の受給歴が引き継がれていないことも少なくありません。過去5年分くらいの補助金の申請・交付の履歴を一覧にしておくと、次の申請の判断が早くなります。
どの制度を組み合わせるのが自社に合うかは、投資の中身と会社の受給歴によって変わります。まずは「AI導入に使える補助金・助成金 完全ガイド」で制度の全体像を確認し、そのうえで組み合わせを検討するのが進めやすい順番です。
よくある質問
Q. 省力化投資補助金とデジタル化・AI導入補助金は同じ年に両方使えますか?
A. 補助対象の設備・ソフトと経費がはっきり分かれていれば、両方を使える場合があります。ただし、同じ経費を両方に計上することはできず、それぞれの制度に申請回数や過去の受給歴による制限もあります。両方の公募要領を確認し、見積を制度ごとに分けたうえで、迷う点は各事務局に確認するのが安全です。制度は公募回で変わるため、最新は公式で確認してください。
Q. 補助金の自己負担分を、別の補助金や助成金でまかなえますか?
A. 国の補助金の自己負担分に、別の国の補助金を充てることは、同じ経費への重複にあたるため認められないのが基本です。自治体の補助金の中には、国の補助金の自己負担分への上乗せを認める制度もありますが、扱いは自治体ごとに異なります。利用を考えている自治体の要綱を確認し、担当課に事前に問い合わせてください。
Q. 他の補助金を申請中であることは、申告しないといけませんか?
A. 省力化投資補助金(一般型)や新事業進出・ものづくり補助金などでは、過去に交付決定を受けた補助金や現在申請中の補助金の実績を、応募時に入力することが求められています。記載漏れは虚偽申請として不採択になるとされているため、申請中のものも含めて正しく申告するのが前提です。入力方法は各制度の手引きで確認してください。
補助金・助成金の併用に関する規定、申請回数や受給歴の制限は、公募回・年度で変わります。最新の情報は必ず公式の公募要領・手引きで確認し、判断に迷う点は事務局や認定支援機関、税理士・社労士などの専門家に相談してください。
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